超音波カメラによるリーク率の定量化方法 | Fluke
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超音波カメラによるリーク率の定量化方法

漏れ検出

多くのアプリケーションで、リーク検出が必要とされています。よく知られている例としては圧縮空気システムが挙げられます。これは、多くの用途で使用され、製造プラントでも一般的に活用されています。

Fluke ii900 産業用超音波カメラ

Fluke ii900/ii910 超音波カメラの動作に関する再確認

Fluke ii900 産業用超音波カメラおよび Fluke ii910 産業用超音波カメラは、特有のアレイ・パターンに配置された 64 個のマイクロフォンを使用します。アレイの中心には可視光カメラが搭載されており、その場の画像を提供します。この装置は、複雑なアルゴリズムでサウンド・マップまたは音源の画像を生成し、生成したサウンド・マップを画像上に重ね合わせます。ii900/ii910 の視野内にある音源の位置により、各マイクが音を受け取るタイミングに若干のずれが生じます。この内蔵マイク間の時間差により、音源の位置を特定することができるのです。装置の右側から音が伝搬する場合、アレイ右側のマイクが左側のマイクより、ほんのわずかだけ早く音を受け取ります。Fluke ii900/ii910 超音波カメラは、その音に対する画像を画面の右側に表示します。

Fluke ii900/ii910 超音波カメラはどのようにリークを検出しますか?

加圧システムでリークが発生すると、漏れた気体 (空気) の分子が乱気流を起こし、気圧と流速が急激に変化します。この変化が音波として伝達されます。Fluke ii900/ii910 超音波カメラは、これらの音波の位置と強度を検出できます。

圧縮空気が周囲に漏れると、可聴周波数域と超音波周波数域の両方で広帯域ノイズが発生します[Eret, Holstein]。産業用圧縮空気システムでは、リーク箇所の特定に狭帯域 (中心周波数が約 40 kHz) の超音波センサーが広く用いられています。しかし、狭帯域超音波センサーには弱点があります。

圧縮空気リークの測定結果
図 1: 開口部 (1/4 インチ) からの圧縮空気リーク。Fluke ii910 精密超音波カメラを使用して、リーク源から 1 メートル離れた場所から測定角度 30 度で測定されました。青い線は平滑化されたスペクトルを表し、赤い破線は 40 kHz 前後の周波数域を表しています。

超音波センサーの有効性を左右する重要な要因は、リーク箇所と測定装置の距離、および測定角度です。第一に、高周波の音は大気の吸収によって急速に減衰します [Wolstencroft]。第二に、圧縮空気のリークによって発生する音圧レベルは、測定角度により変わります [Wolstencroft]。さらに、騒音の多い環境では、狭帯域超音波センサーの性能が低下することが知られています[Eret]。可聴周波数域と超音波周波数域の両方で動作する広帯域センサーを使用すれば、上記の弱点を補うことができます。周波数レンジに柔軟性があるため、リーク検出システムの堅牢性が高くなります。たとえば、図 1 から、システム圧力 6 bar で開口部から漏れている圧縮空気が広帯域ノイズを発生させることが分かります。図 1 は、測定音圧レベルが最大になる周波数域は可聴域であることを示しています。対照的に、周波数域 35 ~ 45 kHz (図 1 の赤い破線) で測定された音圧レベルは、他の周波数スペクトルに比べて著しく低くなっています。

圧縮空気のリーク音の周波数特性を詳しく調査した研究はあまりありません。Holstein et al. (2016)の研究では、規則的に流量を増加させた圧縮空気リーク測定の周波数スペクトルが示されました ( Holsteinの図 2 を参照)。リーク源は丸い開口部で、リーク源から 20 cm 離れた場所で測定されました。この周波数スペクトルは、流量が大きくなるほど、50 kHz より上のエネルギーが増すことを示しています。実験で測定された最大流量の場合、周波数スペクトルのピークは約 80 kHz で発生しました。

リーク検出に影響する要因

リーク検出に影響する要因について、このセクションでそれぞれ説明します。このセクションで説明する各要因は、相互に影響し合っており、それらは幅広い複雑な現象の 1 つの構成要素と見なす必要があります。

リーク源の要因

  1. システム圧力:一般に、システム圧力が高いほどリークが大きくなり、音の強度も高くなるため、検出が容易になります。
  2. 流量: 圧力と同様に、システムの流量が大きいほどリークが大きくなり、リークの位置で測定される音の強度も高くなります。音の強度が高いほど、音響検出は簡単になります。
  3. 開口部のサイズと形状:開口部のサイズと形状は併せて考える必要があります。さまざまなエアリークの可能性を考えていくと、リーク検出に対する形状とサイズの影響のガイドラインを作ることの難しさに気づきます。次のリストは、可能性のあるリーク源の一部を示しています。リストの項目ごとに開口部のサイズと形状の両方が異なります。空気ホースおよび、空気ホースの接続部またはカップリング部:
    • 摩耗による脱落または O リングの欠落による脱落
    • フィルター、潤滑装置、レギュレーター (正しく取り付けられていない場合)
    • 破裂による穴
    • 復水トラップの穴
    • リークのある、または不適切なドレイン
    • 機能しない/低品質のねじ山シール剤、または正しく使われていないねじ山シール剤
    • 制御弁および閉止弁
    • 摩耗したシールまたはガスケット
      • 古いまたは整備されていない空圧工具
      • 空圧式で、アイドリング中または未使用の機械または製造装置

流体特性

流体の特性は、リークから発生する音に影響します。

  1. 密度:表 1 は、0 ℃、1 気圧時の気体の密度を Kg/m3 単位で示しています。気体の密度はリーク音の強度に影響します。たとえば、密度の低いヘリウムは、圧縮空気と比べると、流量と圧力が同じでも、リークの位置で測定される音圧レベルが低くなります。ヘリウムのリークを検出することが困難であることは現場でもよく知られています。
気体の密度値一覧
表 1: 気体の密度値一覧 The density of gas, po, at 0 ℃ 1 ATM (from the Handbook of Chemistry and Physics, 48th ed.)
  1. 粘度: 気体の粘性は、リークの位置での音圧レベルに影響します。ただし、密度と比べるとその影響は小さくなります。
  2. 周辺温度:周囲温度は、リーク源と経路の両方で考慮する必要があります。リーク源では、周囲温度は密度と粘度に影響します。どちらの要因も、リークの位置での音圧レベルを変化させます。周囲温度が上がると、分子の運動エネルギーが増加し、リークの位置での音の強度が上がります。
  3. 周囲気圧:周囲気圧は、気体の密度に直接影響します。周囲気圧が下がると、密度が下がり、リークの位置での音の強度が下がります。
経路要因と大気の影響。
図 2: 自由音場で、音源と測定位置の距離を 2 倍にすると、音の強度が 5 dB 下がります。
  1. リークからカメラまでの距離: 測定距離は測定される音圧レベルに影響します。音は音源から全方向に伝搬するため、距離とともに強度が下がります。
  2. 周辺温度:周囲温度の変化は、気体の密度と粘度の両方に影響します。そして密度と粘度はどちらも、音が媒体を伝わる速度に影響します。音は、温度が上がると速く伝わるようになります。周囲温度の変化は、大気に吸収される音響エネルギーの量に影響するメカニズムの 1 つです。低周波数の音かつ短距離の場合、空気の吸収に対する温度の影響は無視できます [Harris]。ただし、非常に高い周波数の音で、かつ長距離の場合、音圧レベルが著しく下がることがあります [Vladišauskas]。
  3. 湿度: 空気の吸収によって音圧レベルに影響を与える 2 つ目のメカニズムは、湿度です。通常の条件下では、周囲温度の影響が大きく、音圧レベルに対する湿度の影響は無視できます[Harris]。影響が顕著になるのは、非常に高い周波数の音かつ高湿度の場合です [Vladišauskas]。
  4. 周囲気圧:空気の密度と気体の圧力の両方が、音速に対して類似した、しかし正反対の効果を持つため、周囲の気圧は、理想気体に近い状態では音圧レベルに影響しません。つまり、2 つの要因が打ち消し合うわけです。したがって、リークの位置と測定位置の音圧レベルに、周囲気圧による差は出ないと推定されています。

Fluke ii900/ii910 超音波カメラはどのようなリーク特性を測定しますか?

Fluke ii900/ii910 超音波カメラ は、音響入力に基づいてリーク・タイプを明らかにし、リークの流量を推定します。リーク・タイプの分類と流量の推定アルゴリズムを開発するため、実験室で一連の実験が計画され、実施されました。

Fluke ii900/ii910 のリーク・タイプ分類

Fluke ii900/ii910 超音波カメラは、キャプチャしたリークの音響データを、発生場所に基づいて次のように分類します:ホース、開口端、クイックコネクト、ねじ付きカップリング。この 4 分類に対応する 4 種のリーク・タイプを圧縮空気配管システムの末端に形成し、半無響室で音響測定を実施しました。実験セットアップのうち 2 つの例を図 3 と図 4 に示しています。図 5 には、実験の 4 種のリーク条件を作るための継手を示しています。

ホースのリーク測定
図 3: ホースのリーク・タイプ測定 (測定角度 30 度)。
開口端のリーク測定
図 4: 開口端リーク測定の実験セットアップ (測定角度 90 度)。
異なるタイプの圧縮空気リーク
図 5: 実験で調査された 4 種のリーク・タイプ: ホース (a)、開口端 (b)、クイックコネクト (c)、ねじ付きカップリング (d)。
  1. ホース: ホースは柔軟で配管が簡単なチューブです。ただし、金属製や真鍮製のパイプに比べてかなり損傷を受けやすい材料です。したがって、エア・コンプレッサーと空圧装置を接続するホースには、特有の傷や穴が簡単に生じてしまいます。分類と流量推定のため、ホースのリーク音響データのキャプチャには、細長い傷を付けたホースからのリークを使用しました (図 3 および図 5a)。
  2. 開口端: 開口チューブまたは開口部は、科学的な研究 (参考文献) で最もよく用いられているリークのタイプです。これは、圧縮空気システムのチューブ/配管部分が開いたままになっている場合に発生します。ii900 の開発段階全体を通じて、分類と流量推定の実験に開口チューブが使用されました (図 4 および図 5b)。
  3. クイックコネクト: クイックコネクト継手 (クイックディスコネクトまたはクイック・リリース・カップリング) は、すばやく簡単に接続できる継手です。クイックコネクト継手は、一方向にすべり込み、反対方向への引っ張りには抵抗する傾斜部分が重要です。これらの内部傾斜の 1 つ以上が破損し、クイックコネクト継手から圧縮空気が漏れることが、よくあります。空気は継手の周りで散乱するため、圧縮空気のリーク方向は、変形するたびに変わります。Fluke ii900/ii910 超音波カメラの、分類と流量推定アルゴリズムの開発では、音響測定に変形したクイックコネクト継手が使用されました(図 5c)。
  4. ねじ付きカップリング: 圧縮空気システムの終端には、一般的にねじ付きの終端キャップが用いられます。ねじ付き終端キャップは、慎重に取り付け、チューブ端にはめ込むねじ山の数を正しく調整する必要があります。エンジニアがこれらの終端部の緩みを見逃すことがあります。また、何度も使用することで、ねじ付き終端キャップが変形することもあります。そのような場合、圧縮空気が終端キャップから漏れ、システムの効率に悪影響を及ぼします。実験では、緩く固定したねじ付き終端キャップをリーク源として使用しました (図 5d)。

リーク量の定量化指数

Fluke ii900/ii910 超音波カメラは、キャプチャした音響データに基づいて、リークの位置での流量の推定値を提供します。使用される流量アルゴリズムは、半無響室で実施された実験室測定の結果に基づいて設計されました。リーク・タイプによって音響特性が異なるため、リーク・タイプごとに 1 つの流量推定アルゴリズムがあります。したがって、流量推定アルゴリズムは、分類する段階の後で機能します。

分類されたリーク・タイプの推定流量は、リーク量の定量化 (LeakQ) 指数に変換されます。LeakQ は 0 ~ 10 の値を取ります。LeakQ の値が大きいほど、リークの位置での流量が大きいことを示し、修理の必要性があると見なすことができます。

結論

Fluke ii900/ii910 超音波カメラは、効率的な周波数範囲と、リーク検出の困難さと定量化を補う使いやすいハンドヘルド装置のソリューションを提供します。リーク量の定量化 (LeakQ) 機能は、圧縮空気システムの効率を維持するために極めて重要であり、さらにレポート機能によって、メンテナンス・エンジニア間のコミュニケーションの迅速化にも役立ちます。

参考文献

[Eret] Eret, P., & Meskell, C. (2012). Microphone arrays as a leakage detection tool in industrial compressed air systems. Advances in Acoustics and Vibration, 2012.

[Harris] Harris, C. M. (1966). Absorption of sound in air versus humidity and temperature. The Journal of the Acoustical Society of America, 40(1), 148-159.

[Holstein] Holstein, P., Barth, M., & Probst, C. (2016). Acoustic methods for leak detection and tightness testing. In Proceedings, 19th World Conference on Non-Destructive Testing (pp. 13-17).

[Vladišauskas] Vladišauskas, A., & Jakevičius, L. (2004). Absorption of ultrasonic waves in air. Ultragarsas, 50(1), 46-49.

[Wolstencroft] Wolstencroft, H., & Neale, J. (2008). Characterisation of compressed air leaks using airborne ultrasound. Proceedings of Acoustics (AAS’08).